ある朝、目を覚ますと家の中はアリの巣になっていた。これは空想小説の話ではない。私の家で現実に起こっていることである。このアリは家の中、何処からでも湧きでてくる。台所、ゴミ箱、風呂場、トイレ、さらには犬や鳥のえさ箱の中にも。起き抜けに、昨夜残しておいた鍋物の蓋をあけたら、中に真っ黒になるほどアリが群れている!その時の、驚きと怒りを想像していただきたい。「こいつら、皆殺しにしてやる!」私は叫んだのである。
アルゼンチンアリ?それって一体何の話?そう思う人がほとんどであろう。順序だてて話をしないと、とても理解してもらえまい。このアリは廿日市市など広島県西部と、岩国市にしか生息していない「外来生物」である。体調2ミリの非常に小さな種類なので、ちょっとした隙間があれば、どこにでも入り込んでくる。一つの巣に沢山の女王アリがいるので、爆発的な繁殖力を持ち、冬眠することなく1年中活動する。南米原産のアリで、10年以上前に、輸入木材などに付着してやってきたとされている。在来のアリのように土の中に巣作りをせず、ブロック、陶器、鉄板などの下や、枯葉、腐った木材などに巣を作る。人間には実害はないとされているが、油断をしていると傍若無人に家の中に入り込んで、食べ物に群がるという被害が続出するため、ここ2,3年は新聞やテレビでも取り上げられ始めた。しかし、いまだに行政からの取り組みは、ほとんど見られない。住民一人一人が、個人の力で「侵入してきた敵」と闘っているのが現状である。
「アリは働き者」というイメージがある。私自身も、少年の頃にはアリは友であった。夏の日に、虫の死骸を引きずるアリを、いつまでも追いかけた日もあった。夏休みの宿題に、空き瓶の中に巣を作って、アリの観察を試みたこともある。それは日本に昔からいる在来種である、黒い大きなアリである。しかし、現在、私の住む廿日市地区で、この「善良なアリ」を一匹たりとも見つけることはできない。「邪悪なアルザンチンアリ」により、彼らは完全に淘汰されてしまったのである。今、この拙文を書いている時も、こいつらは私の脚を這い上がり、ときにチクリと噛み付いてくる!こんなやつらと人間は共存できないのである。
「こがいな、いなげなもんをほうっといたら、そのうち日本中にはびこって、ほんまにえらいことになるで!」