当市場においては、月曜から金曜まで、毎日のようにセリ売りが行われている。セリ売りの基本は、適正な価格で、公平で迅速な販売をすることだが、それは建前というものである。現在は植木のセリ以外は機械ゼリとなっているので、以前ほどではないが、それでも高く売りたいセリ人と、安く買いたい買参人との間で、常に多くの「駆け引き」が行われていることは確かである。仲卸の社長が、「オークションルームには魔物が住んでいる」と言われたことがあるが、それはセリで応札する人の心理をうまく表現していると思う。必要なものだけを、冷静に頃合の値段で取ろうとしても、ついつい価格に釣られて不要な商品まで買ったり、その場の雰囲気で予想以上の価格で買ってしまうということであろう。
先日、某国営放送において、「衝動買い」における消費者の心理分析をしていた。それは心理学において「アンカリング効果」と呼ぶらしいのだが、これはセリにおける買参の心理にも通じると思われる。すなわち、最初に大きな数字を見せられると、後のものが安く感じられるということ。同じ千円の商品を買うときにも、その前に一万円の物を見た人と、百円の商品を見た人では、全く異なった金銭感覚になるというのである。いま一つは「ひよこ」を使った実験で、すぐに餌が1個出るボタンと、3秒たつと6個出るボタンがあると、「ひよこ」は迷うことなく早く餌が出る方を選ぶのである。これは「早く買わないと、いい物がなくなってしまう」という、バーゲンの心理に通じるものであり、人間の本能といってもいいかもしれない。
わが家にも、衝動的に買った不要な物があふれている。この番組を見た後で、私は妻に言った。「その時の気分で、つまらん物をえっと買わんようにせんといけんのう。」すると、彼女は黙って私を指差す。「わしが一番の衝動買いかい?」―配偶者は、にっこりとしてうなずいた。
「結婚というのは、男にとっても女にとっても、人生一番の衝動買いかもしれんのう。ほいじゃが、後悔ばっかりでもないと思うがのう。」