その10.初仕事

 今は年末の繁盛記の最中である。朝早くから、荷下ろし・荷受・予約やネット販売の処理、そして前売りした荷物の分荷と、多くの作業を短時間にこなすことが市場に求められる。営業担当者はセリ売りのみでなく、予約や相対の対応や、産地や売店への営業、そしてネット販売の入力までしなくてはならない。この10年くらいの間に、市場の仕事は大きく拡大し、多様化し、繁雑になっている。そして社員の労働量と会社の経費は増加しているのに、市場の売上げは伸びてこないというのが、全国の多くの市場の現況かもしれない。

 私は30年前の12月に花満に入ったのだが、私の最初の仕事は、大きな竹を山から担ぎ出す事であった。近郊の山の中に入り、先輩社員の切った長い竹を担いで墓地の中を抜け、鉄道線路沿いを通ってトラックまで運ぶ、という肉体労働を若手社員がやるのである。「これが市場の仕事と言えるんか?」と思ったものだが、その当時は市場が花屋さんから注文を取って、たくさんの門松を社員が作っていたのだ。セリが終了して一段落すると、現場のほとんどの社員が軒下に座り込み、門松づくりに精を出していたのである。不器用な私は、竹の先を斧で粗削りして電気カンナをかけることを毎年のように担当していたものである。冬の日だまりの中での作業で、何処かのんびりした感じの年末風景であった。

 当時は年末の入荷が多くなるといっても、現在とは比較にならぬ物量であったし、産地や売店の対応もあまりなかった。本業以外の雑務が多く、勤務時間はかなり長かったと記憶するが、現在のように市場が厳しい競争にさらされておらず、まだまだ「余裕のある時代」であった。そんな状態でも、当時の市場の売上げは毎年着実に伸びていたのである。

「昔話ばかりするようになると、年を取った証拠かのう。ほうはゆうても、ええ時代じゃったよのう。」