その35.初ゼリ

10月の初め、4人の社員の初ゼリが行われた。新卒あり、途中入社あり、一時退職後の再入社ありと、経歴は様々であるが、23歳から31歳までの若手社員達である。入社3年経過し、広島市のセリ人試験に合格した者すれば、セリ人資格が与えられる。今回の新人セリ人は、この6月に資格を取得した者ばかりである。新人のセリ人参加は、ここ3年位行われておらず、今回は一度に4人昇格ということで、市場は久しぶりに湧き立った。

初ゼリの前日に、先輩社員の指導で予行演習をしている彼らは、私には実に初々しく感じられる。機械ゼリとはいえ、セリ人操作機をたたき、設定値段を入れないと、セリは始まらない。相場感覚も必要であるし、声を出してお願いもしなくてはならない。売れる時はいいが、売れない時の機械ゼリはストレスがたまる。「押し売り」のできる「手ゼリ」の時代がなつかしい。わが社は現在でも、植木部門では手ゼリを行っている。その時のセリ人が、一番生き生きとして、いつもより格好よく見えるから不思議である。機械ゼリは間違いではなかったのか?今更ながら自問するのである。

セリを終えた新人の一人に聞いてみる。K君の感想「父ちゃんが見とるんで、すげえあがったス。でも、みんなよく買ってくれたスよ」新人のセリには、最初のセリ商品に鏡餅が付く。彼のセリには、出荷者の父の提供で、その上に地物マツタケ1パックが付いたという。(そりゃ、応札が多いのはあたりまえよ)4人の新人の初セリは順調に終了した。初めてのセリには、おおむね買参の応札はいいが、2回目以降はそうはいかない。いつまでもやさしくはしてくれない、というのが現実である。

セリ人はセリをするだけが仕事ではない。彼らは、これから生産者と買参人の間にたって、市場の営業の主軸になってゆく。産地担当は「市場の顔」である。市場を信用するというより、自分の担当者が気に入っているからそこに出す、という考えの生産者は意外と多い。そういう人は担当者が変ると、いつのまにか出荷先も変えてしまう。会社の看板を背負っての仕事とはいえ、担当者の個性と資質が問われるのである。市場は人材がすべてというより、人材しかない会社と言えよう。4人の新人がいかに成長していくかーわが社の命運が、彼らにかかっている。

「若いもんが存分に力を出せる会社にならんと、ええことにならんよのう。年寄りが、えっと口を出しちゃあいけん」