年末のあわただしい繁忙期が終わり、新しい年を迎えた。現在は年末の活気がうそのようで、気候も市場も「厳寒期」となって、相場は冷え冷えとしている。年末の、花市場の混雑と喧騒はすさまじい。お歳暮商品を中心とした鉢物の入荷のピークを終えたら、切花の菊、バラ、百合、葉牡丹、洋ラン等の集中的な大量入荷がやってくるのである。そして、すべてを終えた止市の後で、場内外を大掃除し、台車を整理し、場内にケン縄を張り、しめ縄を飾り、6箇所のセリ台に鏡餅を供え、門松を立てる。これはわが社が、代々引き継いでいる年末のしきたりである。すべての作業が終わると、1年の仕事を終えたということで、安堵感とともに、すがすがしい気持ちで新年を迎えることになる。
考えてみれば、年末の忙しさというのは、新しい年を迎える準備を、多くの人がするがゆえに、とも言える。切花では、若松、老松、千両、万年青など、鉢物ではシンビ、シクラメンなどのお歳暮商品と並んで、松竹梅、門松などが市場で販売される。これらの多くは、いわば「縁起物」の商品と言えよう。健康で幸福な人生でありたいという願いを、これらの「縁起物」に託すという、日本人が長年引き継いできた習慣である。
当市場では、年末に「しめ縄」市も行われている。「しめ縄」は「輪飾」とも呼ばれるが、市場においてセリ売りにかけられるのは、全国的にも珍しく、毎年のようにマスコミの取材がある。しかし、このしめ縄の入荷量が、近年、目に見えて減少している。12月の中旬から下旬にかけて、5回しかセリはないのだが、2箇所ゼリで30分以内に終わってしまう。この原因は、市場への流通が少ないのみならず、消費量も以前に比べると激減していると思われる。早い話が、しめ縄を飾らない家が増え、マイカーに付けるのも、むしろまれである。「しめ飾り」は、新年を迎える「日本人の心の象徴」とも言える縁起物である。ウラジロは「白髪になるまで長生き」、ユズリハは「家を譲り子孫が続く」、ダイダイは「代々の繁栄」を、それぞれ意味している。過ぎてゆく年の悪しきことを忘れ、これから迎える年をより良いものにしようという心意気をも表している。
長い人生の中で、1年の始まりと終わりという、節目を大事にするという伝統は、日本人の中に昔から引き継がれてきた「生きる知恵」であり、日本が世界有数の長寿国となった一因ではなかろうか。「しめ飾り」や「門松」という習慣が廃れていっているということは、社会の変化とともに、日本人の心が変ってきたとも言えよう。正月、彼岸、お盆といった、1年の節目の行事に対する意識が、多くの日本人から失われた時、花の業界を支える大きな基盤もゆらぐことになる。そして、日本人の寿命も低下しているかもしれない。
「昔から引き継がれてきたことは、大事にせにゃいけん。花が売れんようになったら、わしらが困るけえのう」